掲載新聞 2002年8月 季刊(サイ) Vol.44
2002年8月 季刊(サイ) Vol.44

リレーエッセイ・27
愛から始まったボランティア
康秀峰(カンスボン)
プロフィール■1948年大阪・生野区生まれ。1994年コリアボランティア協会設立。高麗書道連盟会長、東洋書道連盟理事、高野山書道協会理事、秀峰書道教室主宰。

▼ コリアボランティア協会とは
一九九四年一月大阪・生野区にてコリアボランティア協会設立。困窮者の為の無償のボランティアを原則に、高齢者・障害者の日常介護を中心にボランティア活動を開始。一九九五年からは阪神大震災復興支援も開始。主に神戸・長田区の独居老人宅での生活支援を継続。ほかにボランティア講習・研修、障害を持つ子持たない子の共同野外活動プログラム。ハングル教室。韓国のボランティア団体との国際交流、イベント企画などを実施。二〇〇〇年九月無償で借りていた事務所を立ち退きとなり、現在「避難所」という形で事務所を同区勝山北に移し、ボランティア活動の啓発と実践を続ける。運営資金の八五%を賛同者からのカンパ、残りを助成金等でまかなっています


 民族・国境・ハンディを越えて、愛の香りはどこまでも行くことが可能です。国を隔てる三八度線は日本にはありません。
 日本は世界の中でも、一番民間の福祉が遅れています。世界で一番ボランティアが育ちにくい国です。こんな国だからボランティアするのが苦しいのは当たり前です。苦しい中で一個でも喜びを見つけたらすごい事ですよ。日本社会が良くならなければ、在日の社会もよくなりません。僕は在日コリアンとして日本で生まれ育ち生活し、僕の息子は生野の朝鮮学校で学んでいます。そういう風に、今の若い在日コリアンも日本で生まれ、日本で生活する。多くの同胞が権利を獲得し、以前よりは随分と良くなってはきました。けれども福祉の面はというとまだまだです。物心中心、お金中心の流れはおかしいのだと、だんだんと皆が気づき出してきました。ところがどうしたらいいのか解らない。僕はこの淀んだ流れを変えるのは、ボランティアしかないと思っています。障害を持っている人、恒エリ者の人達はみんな頑張ってる。それなのに日本はその頑張っている人に「もっと、もっと頑張りなさい」と言っている。これって本当に恥ずかしい。日本が良くなるには社会的に弱っている人、苦しんでいる人の声を聞くことからです。
 コリアボランティア協会の始まりは、いつも「愛」からでした。心には善と悪とがあって、人は心の周りに色んな者をため込んでいるように見えます。心と出会うには、愛しかありません。普通は一生懸命そのばまで行こうとして、周囲のゴミをまずどけようとします。こうやって一生懸命にやっていくと、大抵の人が「あれ? なぜ自分だけこんなしんどい事やらなあかんねん?」と考えてしまう。一生懸命やっても、やっても心が見えてこない。やがて疲れて諦めてしまう。考え出したら打算が働くんです。「自分一人がやってたって、あかんやん」って。でも、その人を責めたらダメなんです。苦しんで、苦しんで誰かと出会おうとしてる。誰かを信じたいと渇望している。地位や名誉が欲しい人も責めたらダメですね。本当の愛は心の周りにあるゴミとか汚れをどかしたりしない。ほんの小さな隙間からスーッと入っていって心に出合うんです。その人の心の善と呼ばれるものと合体したら、ゴミや汚れはその人自身が取り除くんです。それまで持っていればいい。たとえ一個でもよろこべることがあればそれで充分です。人は欲があるから三十個良い事があってもショックを受ける。百個目指すからですよ。日本はあまりに欲張りすぎましたね。
 世界でも悲しい出来事がいっぱい起こっています。憎しみや怒りは、そのままだと争いや殺し合いになります。憎しみ、怒りを愛に変えないとダメですね。怒りがその人の全てだと思ったらしんどいです。どこの国にも障害を持った人達のたくましい生活や悩み、苦しみがあります。どこの国の人々も生きる喜びや楽しみを渇望しているはずです。それが実現するのなら僕は人柱になっても良いです。コリアボランティア協会の実験場なんです。僕は愛の科学反応の実験をしてるんです。僕は人に裏切られても許します。その人にも家族や恋人がいるかも知れない。環境がその人をそうさせたかも知れない。そうしなければ一家心中しか道が無かったかも知れない。一+一がいつも、いつも二にしかならない世界はしんどいです。それが当たり前だと思ったら何の感動も無い。愛は一+一が五にも十にも百にもなるんです。愛を注ぎ込みつづける事がボランティアだと僕は思っています。
 僕のボランティアの先生は弟でしたね。僕は小学二年生から生まれつき足の悪い弟の面倒を見てきました。弟は二年前にこの世を去りました。書道をやり出したのも、何か弟に手に職を付けさせたかったからです。弟は二十歳の頃から人工透析をしなければならない身体になりました。二八年間入院生活をしながら、コリアボランティア協会のサッカーチームの監督をしていました。体調が良ければ、入院先から週に二日だけ外泊許可が出ます。その時は、大好きなサッカーの監督として、子ども達と触れ合う事が弟にとって一番うれしい時期だった。生きる喜びを一番実感できる時だったと思います。それから、コリアボランティア協会が財政的に困難な状況に入った頃、弟の体にも変化が起こり始めました。病院からの外泊許可も下りなくなり、楽しみにしていたサッカーも到底できなくなりました。弟が亡くなる直前、コリアボランティア協会のスタッフが見舞いに行ったときのことです。「自分は何も出来ないけれど、せめて美味しいものでも皆で食べてや」とお金を握らせてくれました。弟は「コリアボランティア協会の憩いのマダンは絶対につぶしたらあかん」って思っていた。僕の弟はまだ、死んでないんです。弟のような人はまだいるから。
 現在、コリアボランティア協会の賛同者は八、六〇〇人に及びます。そのうち寄付者は個人、団体を合わせると二、〇〇〇件に登ります。会員制をとったらこんな件数にはならなかったんでしょう。コリアボランティア協会の活動が続いているのはこんな人達の支えがあるからです。これは自発的な善意の証と信じています。私達の活動は草の根の活動です。では、それを支える社会のシステムはどうかと言うと、企業からの寄付に対する税制優遇措置はありません。障害を持った人達、高齢者の人達を国がしっかりとしたシステムで支えるのは当たり前ですが、今、この瞬間にもボランティアの手を必要としている人達はどうすれば言いのでしょうか?ボランティアが育たない限り、あるいは、ボランティアの拠点がなくなってしまったら、障害者も高齢者も即、倒れてしまうのではないでしょうか?
 皆様の支援を心から待っています。そして、共に真に豊かな日本社会にするため、ボランティアの同志として、皆さんとめぐり合える事を心から願っています。
 コリアボランティア協会●カンパお振込先:郵便振替00920−6−29408 大阪市生野区勝山北3−8−31 TEL06−6717−7301

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