掲載新聞 2000年8月12日(土)毎日新聞 夕刊
2000年8月12日(土)毎日新聞 夕刊 さざなみ
在日コリアンA
怒りではなく愛を持ち


 6年前、康秀峰(カンスボン)さん「コリアボランティア協会」を作ったとき、思いもよらない怒りを買った。
 「おまえは日本人から受けてきた差別を忘れから受けてきた差別を忘れたのか。なぜ日本人に尽くす」。同じ在日の人からだった。暴力団組長も事務所に乗り込んできた。「ことと次第では命はないぞ」と、刃物を突きつけられたことも一度ならずあった。
 康さんを、同胞を虐げてきた日本人にこびるひきょう者と見たようだ。それに「ボランティアは一方的な奉仕」という誤解もあった。
 協会では障害者や高齢者の介護に力を入れている。常に数十人のボランティアが動いている。相手が在日の人であれ、日本人であれ、無償で手助けする。康さんは日本人にはとくに親切にと、ふだんから言っている。
 こんなことがあった。役所を通じて介護ボランティア依頼があり、在日の会員が行ってみると「日本の人ではないんですか」と断られた。それでも改めて日本人の会員を派遣した。「悔しくて…。でも怒りを愛に代えてです」という康さんは、少々理不尽なことには目をつぶってきた。「日本の社会で生きていく以上、やむを得ない」。協会の約600人の会員も大半が日本人だ。こうしたやり方や態度が、在日の人の一部には卑屈とうつるのだろう。
 けれども康さんは朝鮮籍を捨てるつもりはない。協会の名も「コリア」にこだわった。
 在日の人の中には、日本国籍を取った人も少ない。2世から3世の時代になり、これからも日本で暮らすうえで日本名を名乗ったほうが、現実的で摩擦も少ないからだろう。それも一つの考え方だ。康さんも日本国籍にかえるよう、周りの人から何度も勧められた。しかし、受け付けなかった。
 韓国籍への転籍にも強力な動きかけがあった。2国に分断された朝鮮半島での「南」優位が、在日の人の動向にも反映してだろう。「南」の籍をとる人も少なくないが、康さんはこれもはねつけてきた。
 それは14年前に亡くなった母への思いがあるからだ。
【前田 隆司】

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