1999年2月2日(火)朝日新聞


この人に、会ってみたかった
コリアボランティア協会 康秀峰さん(50)
被災者いやす文通の輪

 生野区で書道教室を開いていた康秀峰さんは毎日、自宅で何十枚もの色紙に「灯(ともしび)」という字を書く。その色紙を、阪神大震災の被災者向け仮設住宅で独り暮らすお年寄りらに届けて四年になる。お年寄りらの心に夢や希望の「灯」をともしたい、と始めた。
 在日朝鮮人二世の康さんは一九九四年、障害者やお年寄りの介護を目的に、仲間と「コリアボランティア協会」を発足させた。差別を受けた自らの体験から、助け合って生きることの大切さを痛感したからだ。事務局の壁には「民族、国境、ハンディも越えて」と張り紙した。
 翌年、震災が起きた。都市基盤の復興は急速に進んだが、仮設には多くのお年寄りが取り残された。康さんらは仮設の住民を励まそうと、全国の小中学生らに文通を呼びかけた。当時、その活動を取材し記事にしたが、その後どうなったのか、ずっと気がかりだった。
 久しぶりに訪ねた事務局で、康さんは「おかげで全国から一万通の励ましの手紙が集まりました。三冊の文集にまとめて二万部を配りました」と話してくれた。だが、仮設住宅や復興住宅では今なお、だれにもみとられずに亡くなっていく「孤独死」が後を絶えない、と康さんは嘆いていた。
(村瀬 成幸)

 康さんは六人きょうだいの三男として、在日韓国・朝鮮人が多く住む生野区に生まれた。
 障害者の介護をはじめたのは六歳ごろだ。四歳下の弟は足に障害があり、トイレや入浴の世話をしてきた。家主だったおばあさんも目が不自由で、幼い康さんが一日の出来事を話すと、にっこりとした。ボランティアの原体験だった。
 家は貧しかった。東大阪朝鮮第四初級学校二年の時、父が家を出た。母は乳母車をリヤカー代わりにして着物の端切れを集める仕事をしていた。家計を助けようと、ミシン工場でアルバイトをしたり、新聞配達をしたりした。十六歳の時、突然、リウマチになり、前身に激痛が走った。
 「この時、ハンディをもつ苦しみが初めて身にしみて分かりました」

差別体験から民族越え協会

 今も腰などに痛みが残っている。
 大阪朝鮮高級学校を卒業後、東京のサンダル製造工場や大阪の化粧品会社などに勤めた。民族的な差別の言葉を受けて、いたたまれず、職を転々とした。
 会社勤めをしながら、和泉市の書家に師事し、研さんを積んだ。筆を握ると、心が安らいだ。二十六歳で自宅に書道教室を開いた。約百五十人の生徒が集まった。
 ボランティア協会を設立したのは四十六歳の時だ。周りには、介護不足に悩む障害者やお年寄りが大勢いた。すでにボランティア活動をしていた仲間と四人で協会を立ち上げ、書道教室の教え子らにも参加を呼びかけた。在日韓国・朝鮮人や日本人をはじめ、フィリピン、米国など様々な国籍の人が会員になった。
 「私自身、差別を受けてくやしい思いを何度もしました。だけど、怒りはやり返すのでは駄目です。怒りを愛に、ボランティアに変えれば、いつか心が通じ合う。私たちの子供たちが差別を受けないためにも、民族的な立場を越えて活動することが大切だと思ったのです」

お年寄りらに励ましの便り

 震災直後からは、被災地での救援活動に力を入れた。炊き出しを繰り返し、仮設のお年寄りらの困りごと相談に乗り出した。日々の活動から、お年寄りらの寂しげな目が気になった。
 「今もそうですが、家に閉じこもりがちなお年寄りが多いです。震災で受けた傷が痛んで外出できずにテレビばかり見ている人や、震災で身内を亡くして孤独な人。人とのふれあいがなければ、だんだん弱気になってしまいます」
 そんな家に、孫ぐらいの世代から励ましの手紙をもらったら孤独感も薄らぐのではないかと、文通を思いついた。事務局に集まった手紙を、会員がお年寄りに手渡していった。
 手紙には「つらいこと、悲しいことがあっても、元気でがんばって」「大変になった時は、同封したお守りを握れば、落ち着きます」などの言葉があふれていた。外国語で書かれた手紙は翻訳し、手が不自由で変じが書きにくいお年寄りのために代筆もした。
 「壁やふすまに励ましの手紙をはっているお年寄りもいます。落ち込んだ時に手紙を読めば、自殺を思いとどまるかもしれません。子供にも思いやりの心が生まれます。神戸へ足を運ばなくても、だれでも支援ができます」

悩み聞き取る心のケア

 神戸市長田区の仮設住宅に出張所を開き、協会の活動は軌道にのったが、運営資金が足りないのが目下の悩みだ。これまでに府内を始め、東京や神戸などでチャリティー美術展を開いた。康さんの書やイラストレーター黒田征太郎さんの作品、タレント黒柳徹子さんの色紙などを即売した。街頭募金にも立った。
 被災地では今、仮設から復興住宅などへ移り住んだお年寄りが多い。仮設では近所づきあいがあったが、高層の復興住宅で孤立感を深める人もいる。震災五年目の活動目標について、康さんは話す。
 「これからは、人のぬくもりが感じられる心のケアがますます必要になる。それには文通の輪をもっと広げて、ボランティアがこまめに訪問して、悩みを聞かなければなりません」

かん・すぼん 一九四八年、生野区生まれ。現代書道作家で、高麗書道連盟会長を務める。震災後はボランティアに専念するため、書道教室を閉じた。薬剤師で在日朝鮮人二世の妻(四八)と長男(六つ)と暮らす。コリアボランティア協会の登録者は現在、全国で約五千人。寄付の振り込み先は同協会名義で郵便振替「00920・6・29408」。

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