1998年8月13日(木)日本経済新聞
文化
仮設住宅に手紙の心届け
大震災の被災者への文通橋渡し、文集も作成
康秀峰
阪神大震災から早くも三年半が過ぎた。被災地では、いまだ一万二千世帯以上もが仮設住宅に暮らしていることをご存じだろうか。そうした方の多くは高齢者や障害者といった、弱い立場の人々。彼らは、世の中から取り残されているという寂しさを日々、感じている。孤独死や自殺も後を経たない。
私はコリアボランティア協会という組織で、こうした人々を支援している。その活動のひとつとして仮設住宅と、全国の人々とを文通でつないでいる。手紙がたまるたびに、その一部をまとめて作っている文集は三冊目になった。
すでに二千通超える
きっかけは、ある中学との交流である。自分たちのボランティア活動について、大阪府松原市の中学校で話しをしたところ、生徒たちが、自分たちも何かやりたいと言い出したのだ。といっても、実際に現地まで出向くのは難しい子も多かったので、ならば手紙を書いてみたらということになった。
それを仮設住宅へ届けると、とても好評なのだ。涙を浮かべながら、何度も何度も読み返す人ばかり。その話をあちらこちらでしているうちに、全国から手紙が届くようになった。
手紙はまず、一括してコリアボランティア協会の事務局に送ってもらう。それに私たちが一応、目を通して、各所の仮設住宅へ届けている。特定の人にあてたものはその人へ、そうでなく、例えば「仮設のおじいちゃん、おばあちゃんへ」というものは、内容を見ながら「この手紙は、西代仮設住宅のおじいちゃんが喜びそうだな」などと考えて届け先を振り分ける。
読み書きのできないお年寄りには、手紙を読んであげたり、返事を代筆したりもする。仮設住宅への手紙はもう二千通を超えた。小中学生からのものが最も多い。全国で三十校ほどが、文通クラブのようなものを作って皆で定期的に手紙を書いてくれている。会社や市民グループなど社会人の間でも二十ほど、そうした団体がある。
子供たちの手紙はかわいらしい。「つらかったですか。くるしかったですか。でも、がんばってやって下さい。どうしても、大変になった時は夜、星を見るとおちつきます。見られない時は、私のお守りを使って下さい。いれています」と、自分の大切なお守りを同封する子。ウルトラマンやポケットモンスターのシールをプレゼントする子も多い。
絵手紙や詩を書く人も
大人では、絵手紙を送ってくれる人、詩を書いてくる人などさまざまだ。そうした中から、特定の個人と個人との間で文通が始まるケースも多い。中でもやりとりがひんぱんなのは、震災で家族をなくした七十歳のおばあさんと、京都に住むてんかんを抱えた二十五歳の女性だ。てんかんの女性は、おばあさんの孤独がわかる、と自分の心を飾らずに、ありのままに書きつづる。おばあさんは、そんな女性を自分の娘のように感じている。
文通を始めたことによって、おばあさんが元気になったのはもちろんだが、てんかんの女性も精神が安定したようだ。女性のお母さんが「電話代がずいぶん減った」と喜んでいらっしゃった。以前は、寂しいから、友達に電話をかけてばかりいたのだそうだ。
ただ、残念なことに二人を会わせることができない。二人とも、とても会いたがっている。女性はしばしば、私たちに「おばあさんのところへ連れていって」とせがむ。でも、ひどいときは数分に一回も発作を起こすその女性を、神戸へ連れていくには、介護のスタッフ数人と医師が付き添わなければ無理。そんな余裕は、人的にも金銭的にも私たちの団体にはない。おばあさんの方も、京都まで行くには体調に不安がある。でもいつかは必ず、引きあわせるつもりだ。
多くの自殺くい止める
こうした手紙は被災地で、多くの自殺をくい止めていると自負している。実際、そうした声も届く。これをもっと多くの人に読んでもらおうと、一九九七年春に文集を出した。
千部を印刷してお年寄りに配布し、行政機関に置いてもらったところ、一日でなくなってしまった。その年の十月に作った第二集もそうだ。今は第三集を製作中。もっと欲しいという声をたくさんいただくので、本当は一万部でも十万部でも印刷したいのだが、資金がない。
書道家でもある私の作品を売った収入とカンパだけで運営している私たちにとって、ジレンマは多い。せっかく私たちを頼ってくれている人々の期待にこたえられない時など、八方ふさがりになって、真っ暗やみの中で、穴を掘り続けているような気持ちになる。
全国から仮設住宅への手紙は、そんな私たちにとっても大いに励みになっている。私たちの方まで涙してしまう手紙も多いし、時には、私たちに手紙をくれる人もいる。「あなたのような人がいるだけで立ち直れる」といった手紙をもらうと、勇気百倍である。
この夏休みは、手紙を書いてくれている子供たちを連れて、何度か仮設住宅を訪れている。真夏の太陽の下、お年寄りと子供たちの笑顔が輝くのを見ると、疲れも吹き飛ぶ。(カン・スボン=コリアボランティア協会代表)
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