掲載新聞 1995年5月31日 夕刊フジ
1995年5月31日 夕刊フジ 人ほれぼれ
書道家 康秀峰さん(47)


 阪神大震災から四カ月が過ぎ、被災地も落ち着きを徐々に取り戻しつつある。それでも在日外国人や高齢者など社会的弱者にとっては、毎日が闘いだ。そんな彼らに手を差し伸べているのが「コリアボランティア協会」(本部・大阪市生野区)。書道家という本業を半ば放り出し、同協会を設立した康秀峰代表。阪神大震災での活動を通じ、ユニークな人柄に接した。(辻尾有三)

コリアボランティア協会
震災救援で天命と決意


 「阪神大震災が発生してから全力を尽くしていますが、ホンマに忙しくて。いまも週二回はウチのメンバーが被災地に行って活動してます」
 メンバーは大震災前の三倍以上に当たる千人に膨れたが、「助けを求めている被災者はまだまだ多い」と、大震災のツメ跡は非常に深いようだ。
 活動内容は、炊き出しをはじめ、衣類などの救援物資提供は当然として、中には被災地の老人に民謡「炭坑節」を披露したメンバーも。
 康代表は「十七歳の時からリューマチを患っているから、がむしゃらに動けないので、主に電話で心の悩みを聞いています」。

弱者の立場から共生訴え

 同協会は、在日外国人や障害者、貧困にあえぐなど行政のはざまに取り残された人々のため、昨年一月に旗揚げ。設立メンバーは在日韓国・朝鮮人が中心で、「社会的に虐げられている側が、民族や宗教を超え、他人に奉仕するケースは例がない」というユニークな生活を持っている。
 だからこそ、社会的弱者が特に打撃を受けた大震災で、本領を発揮しているのかも。  とはいっても、曲折があった。「大震災発生で急きょ開いた会議では、日常活動で全然余裕がなく、被災地での活動の見送りを決めたんです」と告白する。
 だが、被災地にはメンバーが約三十人住み、知人から「メンバーを見殺しにする気ですか」と詰め寄られ、返す言葉がなかった。そこですぐ会議の決定を撤回、被災者救援活動に全力を尽くすことを決めた。一月二十日のことだった。
 それでも、メンバーの七〇%は高校生や大学生だから、「現地に行って事故に遭ったりすると、親御さんに何と謝ればいいか」との心配もつきまとった。
 さらに活動が一気に拡大したのに伴い、「毎月の運営費は二百万円。大震災前の二倍で、ついに赤字になってしまいました」と新たな課題に直面している。
 だが、日常の活動は以前と変わらず続けているし、へこたれる様子は全くない。極貧の環境下で成長、加えて在日朝鮮人というだけで差別も受け、「この世の地獄を見たと言ってもいいぐらい」なだけに、苦しくても大好きなボランティアに専念できるせいか、うれしそうな表情すらみせる。

ボランティア歴40年
弟子育成にも全力


 生まれながらにして左足が不自由な四歳年下の弟をずっと世話しているから、ボランティア歴は四十年を超す。
 「稼ぎの四分の三をボランティアにつぎ込んだ新婚当時。嫁ハンに殴られ、素行調査をされたことも」といったエピソードもある。
 そしていま、「弱者の立場から共生と国際化を、訴えたい」として、積極的に体を動かす。“弟子”育成にも力を注いでいる。
 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)国籍ながら、北朝鮮と韓国双方の在日民族団体から強い支援を受けている康代表。「分断されている祖国の統一はもちろん、国境など人間を隔てるすべての境界を、地球上からぜひなくしたい」。

記者のひと言う
照れ屋だけど数多い武勇伝


 「夕刊フジ創刊時からの熱心なファン」と、取材を大歓迎してくださった。「ボクは照れ屋だから」と、マスコミからはできるだけ遠ざかっているというだけに、こちらもうれしかった。
 取材は延々三時間にも及び、穏やかな表情やしゃべり方に似合わない武勇伝などいろいろな話が聞けたが、その一部しか原稿にできない歯がゆさも残った。
 リューマチのほか、「腎臓(じんぞう)の調子も良くない」ということだが、ぜひ健康に注意してがんばってほしい。

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