掲載新聞 1991年11月23日(金)毎日新聞
1991年11月23日(金)毎日新聞 '90 在日コリアン 高麗書道連盟会長
康秀峰(カンスボン)さん(42)=生野区


 「飛仁風以樹恵」。「仁風(愛)で自分より恵まれない人に恵みを与える−という意味に解釈しています。一番好きな言葉ですね」と康さん。生野区桃谷三の生家で開いている書道教室。木製の長机が並ぶ六畳、六畳、三畳の三間に幼児から七十歳代までの約百五十人が週四回に分けて集まる。「心が美しくなる修行のつもりで書いてごらん」という康さんの声にうなずきながら、筆を走らせる。
 生徒の国籍は日本、朝鮮が二割ずつ、韓国が六割。様々な悩みを抱える子供らも、「先生の顔を見たら心が和ごむ」と慕って集まり、相談ごとも持ちかける。
 本名は康明秀。在日朝鮮人二世として生野区で生まれた。男女六人兄弟の四番目で、小学二年生から新聞、牛乳配達などのアルバイトをした。近くの朝鮮学校の初、中、高級学校に通ったが、放課後はアルバイトの後、弟や近所の親のいない子たちを連れて一緒に遊んだり、おやつをあげたり。「弱い者を助けないと、という気持ちが自然に芽生えた」という。
 卒業と同時に長男のサンダル製造会社を手伝ったり、化粧品の販売員をし、商才も発揮した。しかし、時には間業者をけ落とさなければならない営業に嫌気がさして転職。その傍ら、妹の発案で障害を持つ弟を、手に職をつけさせようと書道教室に通わせ、自分も習ったのが大きな転機になった。
 その後、自分で書道教室を主宰するようになり、十五年前には「高麗書道連盟」を設立して会長に。五年前には最高の免状である「師範」になった。今年五月に行われた在日の書道家を集めた「高麗書芸展」では最優秀賞を獲得。当初五十人で始めた書道教室の生徒は、百五十人に膨れ上がった。
 同時に障害者運動も続けた。生徒の中から障害者に付き添う介護者も育てた。昨年、知恵遅れの子供らが通う近所の学童保育所の経営が行き詰まったとき、「一カ月に一人千円をカンパしよう」と周囲に呼びかけ、現在も五十人が毎月、この保育所を支える運動を続けている。
 その実績と人柄からか、とかく対立しがちだった韓国居留民団系と朝鮮総連系の団体双方から各種催しの賛同人、チケット販売やポスターの題字執筆など、頼まれ事も多い。康さんのかかわった総連系の美術展に民団の幹部が訪れ、カンパを渡していくなど、“異例”の友好ムードも広がっている。今年八月、祖国統一を願って大阪城野外音楽堂で開かれた「ワンコリアフェスティバル」。康さんは、パンフレットの大事を頼まれ、ハングル文字でハナと書いた。ハナは一つという意味で、「民族は一つ」、とういう康さんの思いが込もっていた。

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