世界貿易機関(WTO)環境サービス貿易
環境サービスの自由化:究極の勝者だけの世界? (LIM Vol.29より)
貿易と持続可能な発展のための国際センター(International Center for Trade and Sustainable Development: ICTSD)
ニュースレターBridges 2002年1月号より訳出
過去数年の間に、OECD(経済協力開発機構)や、他の機関は、環境保護と経済発展を促進するために、環境サービスの自由貿易は、不利益を被るもののない勝者だけの世界を導く可能性を持つものであると指摘する文書をいくつか作成した(注1)。
実際、増加し続ける人口と経済活動の成長が環境にプレッシャーを与え、世界の人口の半分が適切な衛生設備を持たない状況において、環境サービスの自由貿易は、経済的に有効な方法で、これらの問題の解決に取りかかることを促すことは可能であろう。
一般的に有益な影響として言及されるものには、技術移転の拡大、低コスト、一般的な質と効率の維持とともに、特に発展途上国に、これらのサービスの獲得可能性が増すことなどが含まれる。
ドーハ閣僚宣言(訳注 2001.12に第四回世界貿易機関閣僚会議で採択)では、環境サービスが、貿易と環境の調和のとれた関係をつくりだす可能性のある支柱であることを認識し、その分析に公式に取り組むことを規定している。
「貿易と環境の相互維持性を拡大することを目的として、・・(中略)・・(3)環境的な財とサービスへの関税、非関税の障壁の削減、あるいは適宜、撤廃、に関して我々は予め結果を判断することなく、交渉に同意する。」(強調は筆者付加)
しかしながら、環境サービスの自由貿易は、多くの疑問を生じさせる。
まず最も重大なものは、どの活動が環境サービスに実際に含まれるのか、または含まれるべきなのかについて一般的に受け入れられた定義がないことである。
また、主にヨーロッパの多国籍企業からの圧力を通じて、サービス貿易に関する一般協定(GATS)のもとで定義された環境サービスの範囲内に含まれることになりうる飲料水供給の問題に関して、ますます関心が高まっている。
また、ゴミ捨て場やゴミ焼却(注2)の開発など、その他のサービスは、環境に深刻な影響を持つ。
それゆえに、GATSの下での、各加盟国の規制権限の許容度の関して(再び)疑問が生じる。
より一般的に、不利益を被る敗者が存在しない勝者だけのシナリオは、注意深く計画された国内政策なしには、または敗者を生み出すことなしには実現されないであろう。
環境サービスとは何か?
それが問題である。
答えは国によって多様であり、例えば、飲料水の供給と家庭ごみの収集は、環境サービスとして分類されるべきなのかどうかについて一致した見解は存在しない。
さらに、このセクターは、急速かつ複雑な進化の過程にもある。
環境サービスは、WTOサービス領域分類リスト(注3)(WTO SectoralClassification List)の中に含まれたセクターやサブセクターの範囲では、GATSの範疇に入る。
しかしながら、さらに環境サービスのリストの適用範囲、すなわち、アウトプットの流れから汚染源を除去するという伝統的な「配管パイプの最後のところ(end of Pipe)」といった活動という定義(注4)は、特にOECD諸国において、もはや近年の発展状況には合わなくなってきている。
こうした環境サービスの進化と拡大の潜在的な要因には、公的セクターが、従来提供していた水やゴミ処理のようなサービスについて、民営化が拡大したこと、そして、より清潔な製品と生産過程を生み出すために規制が強化される方向に移行したことなどがある。
GATSの環境サービス(注5)の適用範囲の拡大を求める現在のサービス交渉の中で、提案を見送るWTOのメンバーがいる一方で、OECD(経済協力開発機構)とヨーロッパ共同体の統計局(Eurostat)は、共通かつ包括的な環境産業の分類を採用している。
OECD/ Eurostatの定義は、ごみ、騒音、生態系に関連した問題と同様に、水、大気、土壌への環境的損害を修正し、最小化し、制限し、防ぎ、測定するために提供されるサービスを含んでいる。
OECD/ Eurostatの定義と反対に、現在のGATSの分類は、飲料水の供給は含んでいない。
控えめに言っても、商業的な協定に支配される希少な天然資源を目の当たりにすることに、いくつかの非政府組織からの抵抗がある一方で、ECは、これを含めてしまおうと迫っているので、GATSの環境サービスの範囲内に飲料水の供給を入れるかどうかは、ますます関心を集める問題となっている。
勝者と敗者
GATSの交渉の中で提出された、これまでの環境サービス分野に関する提案の全てが指摘するように、このセクターは、疑いなく持続的な発展への重要な意味を持っており、勝者だけが生まれる可能性を持つ。
しかし、その実現は、国内での適切な環境的、または、商業的な規制と政策の実行に大きく依存するであろう。
環境サービスにおける貿易の自由化が、低コストで環境に関する技術と、先進的な専門知識の獲得の可能性をさらに引き出すであろうという事実は、主として抵抗しがたい環境問題や、厳しい財政的な制約に直面している発展途上国の利益となると考えられる。
それらの国の多くは、水とゴミの管理のような基本的な環境サービスをいまだ必要としている。そして、外国からの直接投資を引き付け、政府の財政的負担を減らすために、これらのセクターに民間企業が参加することを認めている。
しかしながら、過去の経験によれば、それがいつも有益なものになるとは限らないことを証明している。
民営化は、しばしば、30%から50%、時には300%から500%の激しい価格の上昇を生み出す。
また、ヨーロッパの多国籍企業は、水の供給とマネジメントにおいて先陣を切る企業(そのためにEUはこれらのサービスをGATSの環境サービスの範囲に含むことを求めている)である一方で、彼らの業績はいつも素晴らしいものとは限らない。
例えば、2000年度に裁判や訴追された数に基づいて、イギリス環境機関は、最も汚染を引き起こした企業として、水を扱ういくつかのイギリスの多国籍企業について言及している。
では、環境サービスは、確実に、勝者だけの世界だといえるのであろうか?
この文章の中で言及されたOECDの調査の中で主張されているように、環境サービスの民営化と自由化は、発展と環境に肯定的な影響をもたらすことも可能ではあるが、地域の状況も考慮されなければならず、規制環境が適切なもので、また選択するアプローチは、影響される人々の関心に応えるものでなければならないのである。
(翻訳協力 長曽我部茜さん)
(注1) OECD, 2000. Environmental services: The 'win-win・role oftrade liberalization in promoting environmental protection andeconomic development, COM/TD/ENV(99)93/FINAL; WTO. 1998. Environmentalservice, Background note by the Secretariat, S/C/W/46
(注2)Dale, Andrew, Services Trade Liberalization: Assessing theEnvironmental Effects, OECD, October 2000.
(注3)MTN/GNS/W/120
(注4)サービス貿易協定は、現在、4つの環境サービスセクターを含んでいる。汚水処理サービス(sewage services,) ゴミ処理サービス(refuse disposal services,)下水設備及び同等のサービス(sanitation and similar services)「その他」の環境サービス('other' environmental services.)
(注5)特に、the EC(S/CSS/W/38) and the US(S/CSS/W/25).