ノック・モントリーさんのスピーチ
“水は経済的商品である。故に使用者が支払うべき経済的価値があるべきである。”
“北タイ地方での水使用量の増加は、現在及び長期的に、下流域(中央タイ)の水利用者の資金と環境への影響を増加させる。水利用者に対して、社会的に、より大きな利益を生むことができるような、いかなる水分配管理メカニズムもまだ存在しない。”(北タイ地域は中央タイ地域よりも、一般経済指標として低い水準にある。)
アジア開発銀行(Asia Development Bank: ADB)の要求に沿うようにタイの水政策を改革するために、農業セクタープログラムローン(Agriculture Sector Program Loan: ASPL)を通じて、この冒頭に挙げた虚構の言葉(言説)が、ADBの諮問委員会と共に、タイ社会へと持ち込まれてきた。
残念なのは、ADBが、この虚構の言葉がどのくらい真実なのかを調べる機会をタイ社会へ与えず、その代わりにこれらの成句をあたかも否定できない教義のように使った事である。
2000年に、アジア開発銀行がタイへ貸し付けた金額は6億USドルにのぼる。
この貸付金はタイ政府の利用できる金を増やし、一部は農民のための灌漑計画で使用されるのかもしれない。
しかし、この巨額の貸付金という贈り物からくる本当の利益については、現在に至ってもまだ、タイ社会において疑問視される点となっている。
特に国の大部分を占める農民にとって、ADB とASPLの目標である、自らの貧困を軽減していけるのだろうか。また、グッド・ガバナンス(Good Governance)、透明性(Transparency)、参加(Participation)、ジェンダー(社会的性差)(Gender)というADBの基本方針から、何らかの利益は得られるのだろうか。
農業部門において生産と市場の効率を増す事が、タイ経済システムの安定した回復への重要課題であるという予想を元に、1997年のタイ経済危機からくる問題を解決することをASPLは目標として掲げている。
生産効率の増加においてのASPLの中心基盤は、タイの水管理に関する政策構造全てを新たに改革し、これに呼応させて、全生産部門での経済発展を最大にする事にある。
それゆえ、かつては地方コミュニティーの社会、文化、経済システムの資本であった水を、経済的商品のように変えてしまうことは明らかである。
この原理の下では、報酬を多く生み出すことの出来る生産部門や水利用者が、報酬をあまり多く生み出せない生産部門や水利用者よりも優先して、水の分配を受ける機会を得ることになってしまう。
例えば、灌漑局の水管理・分配によると、都市部や工業部門への水配分が最優先で、農民全般への水配分は最下位とされている。
この理由により、ASPL におけるADBの方針に対しての最大の疑問点は、ただでさえ農民への少ない水供給量をさらに減らして、この計画がいったいどのくらいの農民の貧困を軽減するのかということである。
ADBは、タイ政府に対し、開発政策レター(Development Policy Letter)と政策マトリックス(Policy Matrix)を規定し、水管理構造の変革を実行することを借款供与の承認条件とした。この条件の中で重要なものとしては以下のようなものがある。
・ 水管理に関する国家政策の制定
・ 水資源に関する法律の制定
・ 水配分において経済手法を使用すること
・ 国家水資源委員会事務局(The Office of the National Water Resources Committee :ONWRC)を水資源管理政策の制定における最高意志決定機関(Apex body)とし、その役割を拡大すること
・ 3つの流域をパイロットケースとして流域管理組織を設置し、流域単位での管理を試験的に行うこと
・ 灌漑を民営化(Privatization)して、灌漑システムの一部においての責任、管理責任、及び灌漑計画地域での農民グループへの流入金について民間に委任すること
・ 灌漑での費用回収を基準として用いること
<訳注:JBIC(旧OECF)に、当時のプレスリリースが掲載されています。>
http://www.jbic.go.jp/japanese/release/oecf/1999/0929-j.php
水利用の効率化とタイの経済システム発展をもたらすためという口実の下、これらの条件(コンディショナリティ)をタイ政府に容認するようADBが強要した事は、逆に、貧困削減(Poverty Reduction)、 グッド・ガバナンス、透明性、参加、ジェンダーといった各面でのADBの方針への疑問を生み出した。
これらADBの方針は、ただの宣伝広告でしかないのだろうか、それとも本当に発展のために専念しているのであろうか。以下に挙げた問題は、ADBへ疑問点を明確に表す例である。
1.灌漑における費用回収を政策として用いること
灌漑システムにおける水利用の効率化と農民の収入増加をはかるという理由の下、農民の収入が増えると、灌漑水の使用料金として資本金返還が可能になるとされているのである。
この政策を用いることは、灌漑計画地域内に住む農民に、灌漑への投資資金の返済という負担をもたらす事になる。
現在でさえ、農民は元金に見合う値段で作物を売る事が出来ないでいるのであるのだから、さらに借金問題が深刻に増加してしまうだろう。
その他にも、政府は灌漑に関する新たな法律草案を、灌漑水の価格決定に政府権力を介入させ、灌漑システムの民営化を進めて商業化が可能なように独占特許権を与える方向で、改革している最中である。
この法律草案はまさにASPLの条件と一致しているのである。
ここでは北タイのラオ川の灌漑計画を例として取り上げる。
これは灌漑面積14万ライ(22,400ha)以上にも及ぶ大きな灌漑計画である。灌漑局はASPLの貸付金68億バーツにより、この灌漑用堰のすべてを改修してきた。
そしてそれは灌漑システムにかかったコスト回収システムと灌漑の参加型管理を導入する必要があることになっている。(☆)
ADBのラオ川流域調査では、この流域の全世帯は年間1万バーツ(220USドル)の増収になると計算している。しかしこのような増収に関するデータは巧妙に作られたものである。
というのは、実際の農民の収入は以前と同じであるにも関わらず、ADBは農民の投資が減ることを想定したうえで、この金額を算出したのである。
たとえば、通常農民は5万バーツを投資し、6万バーツの収益を得るとする。その場合利益は1万バーツである。
しかし、この調査では投資額が4万バーツと想定しており、収入は以前と同じ6万とすることで、収入を2万バーツとし、1万バーツの増収となると計算されている。
これは机上のトリックであり、こうした数字を作り出すことで農民が費用回収分を払うだけの収入を得ることが出来ると信じさせているのである。
ラオ川灌漑計画地域で生活する農民はそれぞれ、この灌漑コスト回収に反対の意思を持っている。以下はその例である。
“もし、政府がラオ川灌漑のコストを村人から回収しようとしたら、反対だ。なぜなら、政府は奉仕をする義務があると、憲法は規定しているからだ。”
ブンスーム・ジャイウォンイエン氏 (ラオ川灌漑地区農民チェンライ県パーン郡)
“ADBの貸付金やコストを農民が負担する条件など、われわれは全然知らされなかったのだから、われわれに責任をとらせることはできないはずだ。責任は同意書にサインをした者にある。”
プラティープ・プッタシー氏 (ラオ川灌漑地区農民チェンライ県パーン郡)
2.農業セクター・プログラム・ローン(ASPL)はタイ国憲法第79条と相容れない
この第79条は、政府の基盤である政策決定のプロセスにおいて、民衆の参加が不可欠であると規定している。しかし、水資源と農民に多項目において関係する政策の改革を、政府は力ずくで決定した。
それ以外にも、政府の政策を公式に監査するメカニズムであるASPLへの国会(立法府)から「見解」を、タイ政府は明白に示していない。それゆえ、この計画はADBのグッド・ガバナンス、透明性、参加という方針に全く一致していないと言える。
3.水資源の私有化・民営化という目的達成のため、アジア開発銀行はASPLを用いてタイ国内事情 へ干渉している
この重要問題に関し、タイ社会では議論の決着をいまだみない。
しかし、水の私有化・民営化を具体化するため、ADBは機会に乗じてタイ政府に政策改革を強要した。ADBによる干渉は、以下のことから明らかに見える。
・ “Country Assistance Plan : Thailand, 1999-2001”(国家支援計画:タイ,1999‐2001)。この文書は、農業セクター・プログラム・ローン(ASPL)中の借款および技術の下、タイ政府が水管理その他の政策を改革する必要があるということを、明確に述べている。
・ ADBはタイ政府に対し、ピン川上流域・下流域及びパサック川流域を管理する小委員会の設置を、借款承認の前条件として規定した。この事は文書“ADB : RRP-THA32421(1999年8月)に明記されている。
4.水に関する国策(2000年10月31日)制定における不透明性
この水に関する国策は、ADBのコンサルタント会社が、国家水資源委員会(NWRC) に対し、技術支援(TA)を行って制定したものである。しかしこの手続きは、政策決定における国民の参加を通さず行われたものである。そして重要な問題は、NWRCメンバーの何人かは、ADBのコンサルタント会社との密接な関係を持っている。このことから、現在のこの水に関する政策は、ADBによって規定された方針であるといえるだろう。
経済危機はアジア開発銀行と世界銀行に、水資源管理の私有化・民営化を実際に推進することを可能とする機会を与えた。アジア開発銀行の文書“Country Assistance Plan-CAP(国家支援計画)”と世界銀行の文書“Country Assistance Strategy-CAS(国家支援戦略)”に現れている。
世界銀行に関しても、灌漑システムの効率化の遅れを言及し、新たな機構(例えば、水利用者の会や水域管理機構など)の設置と発展を提案しつつ、アジア開発銀行と同じく水資源の私有化・民営化のための借款条件を規定している。
そしてさらに、需要管理(Demand Side Management)の改善、費用回収のための水料金の回収、各生産部門における水利用者の間での水使用権の売買システムの発展、にまで言及している。
この事から明白なのは、この全ての水資源民営化・私有化をめぐる条件下で、最も利益を受けるグループは、いつでも水の供給を十分に受けられる都市部、民間商業部門及び工業部門だということである。
これは虚構の格言と一致する。
“水は経済的商品である。ゆえに、使用者が支払うべき経済的価値があるべきである。”
“より高い報酬を築けるものによって、水は使われるべきだ。”
そして、購買力の高さだけが経済的権力を示すメカニズムである自由市場制度を通じて農民を排斥したり、水資源へのアクセスを制限している。
そして、たとえ自分の農地を通り流れる水でも、農民は水を使う権利が無くなるかも知れないのである。
タイ政府が特に6億USドルの借入金からくる利益だけを見ている頃、ADBとWBは水を経済的商品に変えることによる利益を確実に得ている。
この世相の中で、水資源が十分に利用できるということを保障することにより、外国の投資化や経済発展への道を開けるからである。
しかし、疑問なのは、ASPLからタイの農民社会が受け取れる利益とは何なのだろうか。政府からの回答はいまだない。しかし、ここで明らかな答えは、これが貧困の配分(Poverty Distribution)につながるという事だけである。